高校物理数学(第二版) web版
澤山 晋太郎
■前書き
自分は東京工業大学で相対論を研究し、博士号を取得したのだが、現在は自分で澤山物理塾という私塾を経営して、高校生に物理学を指導している。その指導過程で気になったことが何点かあって、どうやら高校物理は使っている数学が高度すぎて高校生には分かりづらいんではないかということであった。
力学から使っている数学が高度である。三角関数の微分法や指数関数や対数関数の微分法も高校数学ではやっていないらしいし、常微分方程式を指導する必要がある。その過程で逆三角関数なども指導してきた。特にバネ振動の解を求めるのに逆三角関数が必要になり、エネルギー保存則とニュートンの第二法則が等価であるという証明にも逆三角関数が必要となる。また、モーメントのところで外積という三次元ベクトルの話をしないとならないようになっていた。
波動ではもうすでにスカラー場の理論になってしまっていて、場の理論の説明もしないとならないし、偏微分方程式の解法も教えないとならない。そこで、自分はフーリエ展開の手法を指導することにしている。
電磁気は特に難しく、ベクトル場である。場の理論がそもそも難しいのに電磁気ではベクトル場が登場する。しかしながら、これも簡素に説明することができる。また、高校物理の電磁気の説明は全てマクスウェルの方程式に帰結させることができるので、マクスウェルの方程式も指導している。また、それと同時にベクトル解析の手法も指導している。
また、初等的な熱力学の考えにも触れることにする。
この本では上記のようなことを数学的に高校生にも分かりやすく書くつもりである。ちなみに、自分は理論物理学者なので、集合論が数学の大元にあると考えていて、集合論の説明からする。
また、初版本ではいくらか説明不足だったところをこの第二版ではおぎなうことにする。
理論物理学者 博士(理学)
澤山 晋太郎
■目次
数学の基礎は集合論である。まず初めにその定義から始める。なぜ、数学の基礎が集合論かというと、大学ではあらゆるものを集合にして扱うからである。実数という集合や複素数という集合、または関数という集合、行列という集合を扱うようになる。関数の集合というのはありとあらゆる関数の集合であったり、無限回微分可能な関数の集合、二階微分可能な集合などがある。また、行列の集合というのは、二行二列のあらゆる行列の集合であったり、n行n列のありとあらゆる集合を扱う。行列の場合は足し算と掛け算が定義されていて、1元(単位行列)とゼロ元(ゼロ行列)が定義されているので、そういうものを代数と呼び、行列の場合は線形代数と呼ばれるようになる。代数とは群に掛け算を定義したものであるが、基本的に行列のことである。そうでないものは量子力学で登場する。例えば位置xの演算子や運動量pの演算子がそれである。また、集合論によって演繹法が定義される。この演繹法こそ数学の根本である。
それでは集合の定義から始める。
定義1.1:もしも、aがAに入っているのならば、a∈Aと書きこの時aのことを集合の要素や元と言い、Aを集合と呼ぶ。
例えば、{φ,a,b,c,}という集合の中にはaとbとcが入っていて、何もないを意味する空集合φも入っている。また、{φ,1}という集合があった場合、その集合の集合は、{φ,{φ},{1},{φ,1}}となる。
ここでさらに部分集合のことを書いておこう。
定義1.2:もしも、Bという集合の全ての要素がAに含まれるのなら、B⊂Aと書く。この時BのことをAの部分集合と呼ぶ。
ちなみに、あらゆる集合には空集合φが入っている。このようにBがAに含まれている時にBはAであると言うことができ、それが演繹法である。もしくはBはAの性質を受け継いでいる。このことを数学の証明で多く用いる。
まずここで、実数の集合を定義してみよう。ちなみに、実数の定義は以下のとおりである。
定義1.3:実数とは無限小数である。
ここで、例を挙げるのなら次のようになる。
これは整数、有理数、無理数、超越数となっているが、みな同じ性質で無限小数になっている。では0.999999…が1である証明をしておこう。ちょっと前までは級数を使った計算方法しかなかったが、最近だともっと簡単な手法がある。
このような簡単な計算によって0.999999…が1であることの証明ができるようになった。ちなみに、この方法では0.999999…の収束のことを書いていないが、等比級数を使って0.999999…=1という証明もあり、そこでは収束することが示されている。
次に実数全体の集合を考えてみよう。要素は無限小数である。するとそのような集合としてRが書ける。また複素数全体の集合として、Cというものがある。n次元の実数空間として
があるし、n次元の複素数空間として
がある。また、実数を集合として現した場合に、
と書ける。この括弧は開集合であって、マイナスの無限大からプラスの無限大までである。しかし、マイナス無限大とプラス無限大は含んでいない。
また、非常に重要なことで開集合と閉集合の定義もしておく。まず、集合によってはノルムが定義できたり距離が定義できる。二次元平面において、中心からの距離がノルムであり、二点間の距離が距離である。もちろん、通常はユークリッド幾何によって距離を定義しているが、別の定義方法もある。つまるところ、ノルムとは中心からの距離であり、実数で表わされる。距離も集合の二点を実数になおす写像である。ここで内点の定義をしよう。
定義1.4:
ここでU(x,δ)はxを中心にδだけ距離を持つ集合である。ここで開集合を定義すると次のようになる。
定義1.6:集合Aに開集合の部分集合の族があり、任意の点がとあるその部分集合に含まれていて、部分集合の和はAになっていて、その部分集合の族にAと空集合が含まれている時、その集合を位相空間と呼ぶ。
高校数学や高校物理で登場する空間は全て位相空間になっているので問題はないが、位相空間というのは非常に重要な概念である。例えば、三次元空間には半径rの球の開集合をあらゆる点に埋め込むことができる。このような開集合を開球(open ball)と呼ぶ。このような開球は実は三次元空間のいたるところに存在していて(どこの点からも半径rの開集合を定義することができる)、すでに位相空間になっている。このような開球が位相と呼ばれる集合である。また、そのような開球に任意の点が含まれているし、その開球の和は三次元空間になっている。また、全体として族になっていて、三次元空間を含んでいるし、空集合も含んでいる。なので、三次元空間は位相空間である。ちなみに、もともと三次元空間を定義したのではなく、初めに開球という位相を定義しているところに注意されたい。
ここで、自分は無限大の概念について触れたい。
図1
上図のように実数の原点の上に半径1の円を書いたとする。その上の点Pから、実数の点Rまで直線を引くとすると円周上の点Qと交わるようになっている。これによって、実数上のあらゆる点を円周上の点に置き換えることができる。このような作業を写像と言う。もちろん、点Pだけがあまるのだが、そこを±∞とする。つまり、実数の無限に続く直線よりも半径1の円のほうが大きいということである。ちなみに、このように円の点Pなどの一点をつけて∞を加える作業のことを一点コンパクト化と呼ぶ。つまり、無限大とはPのことである。
また、写像に関しても重要であるがために言及したい。もしも、Aという集合とBという集合が二つあれば、以下のように写像を定義できる。
定義1.7
しかしながらこの中で特別な写像というものがある。AからAへの写像というのもあるし、実数から実数への写像もある。この実数から実数への写像が関数と呼ばれるものである。また、ある集合Aから実数への写像があり、大小関係がある場合があり、その時にその集合はノルム空間であると言われる。また、とある集合Aの二つの要素から実数への写像があり、それが距離の性質を満たしている時に距離空間と言う。ただ、高校の範囲内で登場するものはノルム空間であり、距離空間でもあるのであまり気にしないでよい。
とある空間で、任意の点列がコーシー列を持ち、それが収束するとき、その空間を完備という。これは量子力学における完備と同じである。完備なノルム空間をバナッハ空間と呼ぶ。ほとんどの空間はバナッハ空間である。
ちなみに、コーシー列とは、無限数列
に関して、
が成り立つ数列である。例えば、三次元空間では任意の点列がコーシー列を持つので完備である。また、三次元空間ではノルム(原点からの大きさ)を定義できるので、ノルム空間である。ただ、ここで注意されたいのは、ノルムの定義の仕方である。ユークリッド距離
をノルムとして定義するのが一般的であるが、
で定義することもできる。このようにノルムの定義には色々とある。これは関数のノルム、行列のノルムの定義に関しても言える。
次に初等関数の微分法について触れたい。典型的な微分法は以下のとおりである。
自分はこの五つの微分法の証明をこれからやっていく。ところで、微分の定義であるが、数学では次のように定義されてある。
この定義を使って上記の五つの微分の証明を高校生にも分かるように行っていく。ここで、この極限はゼロ分のゼロになっているが、特定の数値を持つようになっている。このような極限も存在している。もちろん、これが特定の数値を持たずに発散することもある。そのような時は微分不可能と呼ばれる。この上記の定義式から、微分は関数の傾きであると分かる。
まず、一番初めの証明であるが、これは簡単であって、次のようにできる。
ここでは乗数を実数aではなくて自然数nにしたが任意の実数aについても同じことが言える。これを言うためにはテーラー展開の知識が必要になる。ただ、テーラー展開に関しては次の章で少しだけ説明する。ここで関数OはΔxの二次以上の項を含む関数である。その二次以上の関数は極限でゼロになるので省略してそう書いている。次に三角関数の微分であるが、以下の証明をまず初めにする。
これを証明するために下図のような三角形を考える。
図2
ここで、△OACと扇OACと△OABの面積について考えると次のようになる。ただし、OAの長さは1とする。
これを
で割ることによって下の式が得られる。
これにはさみうちの原理によってθがゼロになる極限をとると、
では三角関数の微分の証明をしてみよう。
また、コサインの微分はサインの位相をπ/2ずらしたものなので、これから導くことができる。
次に対数の微分を証明してみる。自然対数は以下のように定義される。
ここで、
というように微分できる。また、指数の微分であるが、
という計算によって指数関数の微分の証明ができる。これで上述した五つの微分法についての証明は終りである。
次に微分法には次の三つの性質があるので、憶えておいてもらいたい。
これらの証明も微分法の定義を使って証明できるのだが、ここでは省略する。ただ、ここで憶えてもらいたいのは、物理学において、微分は分数のように振る舞うということである。微分が分数のように振る舞うことの証明はなされていないが、なぜか微分は分数のように振る舞う。それが(2.17)で言っていることだったりする。
次に積分の定義であるが、次のように行う。
このでの和の範囲はx=aからbである。
また、連続な関数においては、
が成り立っている。この積分以外にもルベーグ積分もある。ルベーグ積分と一致する関数もあるし、そうでない関数もある。ちなみに、ルベーグ積分は一定の高さで和をとる方法の積分である。上記の通常の積分は一定の長さで積分をしている。
上記に書いた積分は次の性質を満たす。
つまり、積分は微分の逆という性質を持っている。これによって積分が分かるようになっている。
積分に関する初等公式を書くと次のようになる。
積分に関する重要な公式を説明するまず、足し算の積分であるが、
次に部分積分であるが、
を積分することによって部分積分の公式が導かれて、
となる。また、置換積分の公式は次のように導ける。
さて、次に特殊な積分法の話をする。以下のような関数の積分を考える。
この関数は統計数学などで重要な役割を果たす。特に正規分布において登場する関数である。この積分法であるが、まず二乗に積分してから変数変換を行う。
この二回積分のところで、xとyからrとθに変数変換をした。これは測度論と呼ばれるものであるが、今の場合は次のような関係が成り立っている。
問題
1:以下の関数を微分せよ
2:以下の関数を積分せよ
ここではテーラー展開やテーラー近似について簡単な説明をする。まず中間値の定理から入って、平均値の定理、ロルの定理、ロピタルの定理、テイラー近似、テイラー展開と説明する。
中間値の定理
最大値の定理
中間値の定理と最大値の定理は図を描くとほとんど自明である。ところで、ここで連続な関数の定義を言っていなかったが、+からの極限と−からの極限が同じ関数のことである。ちなみに、微分したものが連続ならば可微分な関数と言う。n回微分したものまで連続な関数なら
級関数と言い、無限回微分可能ならば、
級関数という。
次に平均値の定理を証明したいと思う。証明する時にロルの定理を使う。
平均値の定理
この定理の証明の前に、ロルの定理の証明を行う。ちなみに、この証明は特別な場合
を示してから行う。
ロルの定理
証明
ロルの定理はテーラー展開を導くまで、非常に有効な定理である。
平均値の定理の証明
次にロピタルの定理の証明を行っていく。その前にコーシーの平均値の定理の証明を行っていく。
コーシーの平均値の定理
証明
ロピタルの定理
証明
テーラーの定理
証明
関数
を次の式で定義する。
ここで、
は
上微分可能で、
に注意する。ここで、
と置けば、
よって、ロルの定理より、
ここで、
よって、
■
このテーラーの定理で、関数が
級だと無限に近似できる。また、
の時をマクローリン近似という。
例えば、幾つかのテーラー展開の例を書くと次のようになる。
問題
1:(3.11)から(3.14)を証明せよ。
3:次の極限値を求めよ
関数を逆に解くことができて、そういうものを逆関数と言う。例えば、指数関数の逆関数は対数関数である。そのようなことが三角関数においてもできる。逆関数を求める手法であるが、以下のように微分してから上微分方程式を解くという手法によって導くことができる。
ここで、xとyを変換して両辺を積分することによって、
余弦のほうも同じで、
さらに、正接を考えてみると次のようになる。
ここでグラフは上からArcsin(x),Arccos(x),Arctan(x)である。
問題
次の計算をせよ
よく高校物理の教科書や参考書にはモーメントをスカラー量と書いているものが多いが実際にはモーメントは外積で定義されるベクトル量である。ここで簡単に外積の定義を書いておく。
という二つの三次元ベクトルがある場合に外積は次のように定義される。
このベクトルは
、
また、外積には次の関係がある。
ちなみに、(5.4)の幾何学的な意味であるが、三つのベクトルによって作られる立方体の体積である。ちなみに、もしも
であり、
であった場合、(5.2)はz方向だけを持つ。このようなことを左手の法則などと高校物理では教えている。
問題
(5.4)と(5.5)を証明せよ
さて、今までの段階で高校物理に必要な最低限の数学はそろったことになる。それで、まずは力学にその数学を用いて見てみる。力学の出発点として、位置、速度、加速度がある。そして、物理量として運動量を定義することから始まる。運動量の定義は、
である。もしも、質量が速度に依存しないのならば、その微分がニュートンの第二法則になっている(
)。
さらに、ニュートンの第二法則を経路で積分することによってエネルギーが得られる。
ここで、Lはラグランジアンと呼ばれる量であり、積分定数として保存される。また、Uはポテンシャルエナジーである。しかし、次の量も保存されて以下の量がエネルギーと呼ばれる(またはハミルトニアンである)。
ちなみに、正確にハミルトニアンを書くならば、速度を使わずに運動量を用いて書くようになる。つまり、ニュートンの第二法則も、エネルギー保存則も同じことである。ちなみに、運動量は質量かける速度であり、数学的な量ではなくて物理量である。しかし、このように運動量を定義すると、運動量の足し算もまた運動量になっている(加法性)が言えたり、エネルギーの可法性も言えるようになる。
さて、我々が解くべき方程式は二つほどあり、一様重力場でも物体の運動とバネなどの振動の運動である。それぞれ運動方程式を書くと、
の二つである。ここで二番目の式のaは振動の運動によって異なるようになっている定数である。では一番目の運動方程式から解いていく。もちろんこれは一様重力場のもとでの運動である。
方程式を一回積分すると次のようになる。
ここで、
は積分定数である。もう一回積分すると、
となる。
も積分定数である。
ここで、
という関係式から、それぞれの積分定数は初速度と初期位置になっていることが分かる。以上が一様重力場のもとでの簡単な運動方程式であった。
次にバネ振動の方程式である二番目の方程式を解いてみる。今、
と置いてみて、方程式に代入すると以下の方程式が得られる。
今ここで、
と置くことによって、その方程式は以下のようになる。
これを次のように変形して積分する。
今ここで逆三角関数のタンジェントの積分を使ってみると、
と置いて、
これより、
ここでgを積分することによって、fが求まる。
ここでfを指数関数の肩に乗せると、
となって、解を導くことができる。余弦と正弦は位相がずれているだけだから、次のようにも書ける。ここで
である。
ここで
簡単なバネ振動の場合は、
となる。
一階の常微分方程式は積分すらできれば解くことが可能なことに対して、二階以上の常微分方程式は解くことが非常に困難になる。例えば、振り子の運動方程式を完全に解こうとすると、楕円積分と言う解けない積分の代名詞なような積分形になる。
もしも、一階の常微分方程式が以下のような形なら次のように解ける。
ここで、もしも積分が解けるのなら、その逆関数として、運動方程式が求まる。
二階常微分方程式であるが、解ける場合と解けない場合がある。空気抵抗が速度の一乗に比例する場合は解けるが、二乗に比例する場合は解けない。一乗に比例する時は次のようにして解く。まず運動方程式は
であるが、
を代入することにより次の二次方程式になる。
この解はよく知られているように、
である。もしも、bが正で、平方根の中がマイナスになるのならばこの運動は減衰振動になる。
また、エネルギー保存則がニュートンの第二法則の積分ならば、エネルギー保存則からも同じ結果が得られることになる。次にそれを証明しようと思う。まず、考えるのはバネ振動におけるエネルギー保存則の式である。
これを変形することによって次のように式変形できる。
さらに、
と変形できる。これを積分することによって、
さらに逆三角関数を元に戻すと、
となっていて、ニュートンの運動方程式を解いた結果と一致している。ただ、こちらのやり方のほうが、振幅まで求まる。これと同じ手法を使って惑星の軌道を求めることができる。
問題
次の常微分方程式を求めよ
波動のところで登場する波を表わす関数は時間と位置の二つのパラメーターに依存し、二変数関数と呼ばれる。一般に幾つかの変数に依存する関数のことを多変数関数という。ところで、波動を表わす関数として以下の関数が使われるのだが、これは波動方程式というものを解いた帰結である。
これが高校物理において登場する波動の関数であり、時間
に依存している。また、
しかしながら、これは次の波動方程式(クラインゴルドンタイプ)の帰結になっている。
もちろん、これはクラインゴルドンタイプであるが、他の波動方程式として、シュレーディンガータイプのものや、ディラックタイプのものまで存在する。ちなみに、ここで登場するvは波速である。
しかし、ここで初めて偏微分というものが登場したので、それを全微分とどう違うのか書いてみようと思う。後は二変数関数の説明もしようと思う。
まず、二変数関数として、適当な組み合わせで幾つもの関数を作ることができる。以下その例である。
このように
二つの変数に比例するものを二変数関数と言う。
それで、とりあえず、
としてみよう。この場合の偏微分は以下のようになっている。
ここで最後の一行で微分の順序に依存しないことを書いたが、順序に依存する関数もある。ただ、物理で登場する関数はこの交換関係が成り立っている。
それでは上の波動方程式は二つの変数による微分を含んでいる微分方程式であって、こういうものを偏微分方程式と呼ぶ。それと、全微分と偏微分の違いであるが、次の関数の全微分を見てくれると分かりやすいと思う。
ここでの関数は四変数関数で、しかも
が
に依存すると仮定した。この方程式が全微分と偏微分を結ぶ方程式である。
ちなみに、この波動で登場する
という関数はそれぞれの位置に時間によって変動する値を持つので、スカラー場とも言われる。それに対してベクトル場というものも存在して、それは電磁気で登場する。各点が振動するようなイメージでいい。
それでは先ほどの波動方程式を解いてみるのだが、まず初めに変数分離というものを行う。
このように積で書けると仮定することによって簡略化できる。そして今、フーリエ変換と言うものを利用する。とりあえず、数式を書くと以下のようになる。
この二番目の変換をフーリエ逆変換という。あらゆる関数はこのフーリエ変換が適用できる。ただ、周期的な関数の場合はまたちょっと異なる。このフーリエ変換によって、
を書こうと思う。すると、
と書ける。今二変数関数は、
となっているので、これを波動方程式の中に入れると、
となって、先ほどのバネ振動の方程式と同じ形になる。ちなみに、
この方程式を解くと、常微分方程式のバネ振動の解と同じものが得られ、
となる。ここでは三角関数ではなく指数関数を使ったが、三角関数と指数関数にはテーラー展開を見ると分かるように関係があって、次のようになっている。
ここで三角関数や指数関数のことを基底と呼ぶ。英語ではbaseである。つまり、三角関数を使うか、指数関数を使うかでは物理の場合はどちらでもいいということになっている。指数関数はここでは虚数であるが、物理量としては実数の部分を利用すればいい。ところで、波動方程式を解いた解は
となっていて、三角関数に治せば、
となっている。ここで波数と波長、角速度と周期には以下のような関係がある。
よって高校物理の教科書に載っているような答えになっているのである。
ちなみに、高校物理に登場する重ね合わせの原理を、正確に表現するのならば、波動方程式の解の足し算もまた波動方程式の解になっているということである。高校物理では加法定理の逆を使い、二つの正弦波を足すのだが、大学の物理ではフーリエ変換を使うことによって、無限個の波を重ね合わせることができるようになっている。それは(7.13),(7.14)から分かるようになっている。
高校物理の電磁気はマクスウェルの方程式を理解すれば簡単に理解できるようになっている。しかし、その準備として四変数関数の説明やベクトル場の説明からする。電磁気で重要なものは電場と磁場である。それを
で書くことにする。これらは三次元ベクトルであって、次のようになっている。
このように成分が位置と時間に依存し、それがベクトルになっているものをベクトル場と言う。簡単なイメージで各点各点にベクトルがあるというイメージでいい。この二つの量から新しい量を作ることができて、
の二つである。Hを磁場の強さと言い、Dを電束密度という。これら四つのベクトル場の方程式で、電磁気の方程式なのがマクスウェルの方程式であり、以下のとおりである。
の四つである。ここで
である。しかしながら、この四つのマクスウェルの方程式を理解するのには、ベクトル解析の理解が必要で、まずはベクトル解析の基礎に触れておく。
の説明をしようと思う。これは以下のように定義されている。
ここでそれぞれの意味を説明すると、gradは関数の傾きを表わし、divは単位体積当たりからどのくらいベクトルが放出されるのかということを意味し、rotは単位面積当たりの周回積分を意味する。つまり、(8.4)はファラデーの電磁誘導の法則を意味する。(8.5)で電界の変化がない時はアンペールの法則になる。そして、(8.6)からはクーロン力を導ける。(8.7)は磁束のベクトルは一周していて、分岐することがないことを言っている。ところで、divとrotの説明は次のようにして行う。
まず、divの説明であるが、次のような二次元平面を考えてみる。
図8.1
このベクトルの和より、
これから、単位面積からの矢印の発生量と言うことが分かる。ここでは二次元平面にしたが、三次元の立方体を考えると、単位体積からの矢印の発生量と分かる。
また、rotにかんしては、今と同じような二次元平面を考え、
図8.2
周回和を考えると、
また以下の公式がある。
ここで、
である。
ちなみに、(8.6)で
がゼロの時、電場Eは
なので、(8.6)式は以下のように書ける。ここでφは電位である。
これが有名なラプラス方程式である。ただ、この解法はかなり難しいので電磁気学の教科書を参考にされたい。
また、φが求まれば、EもDも分かるし、電流がない時はBもHもこのラプラス方程式から分かるようになっている。電荷がある時は、
であるが、これをポアッソン方程式と呼ぶ。
問題
方程式(8.13)から(8.18)までを証明せよ。
熱力学には二つの方程式がある。状態方程式と熱力学第一法則である。この二つの方程式を使っていくのが熱力学である。二つの方程式を書くと次のようになる。
ここで、Pは圧力、Vは体積、nはモル数、Rは気体定数、Tは温度である。(9.2)ではQが熱量でUが内部エネルギーである。Δはその変化を表わしている。また、内部エネルギーの変化は以下のように書ける。
ここで
は定積モル比熱である。ただし、単原子分子の理想気体の時は
となる。高校物理ではこのタイプしかほとんど出題されないために、(9.2)を次のように書く
しかし、ここで注意されたいのは熱量は圧力、体積、温度の三つが変数になっているようで、実は状態方程式があるので、二変数関数ということである。また、(9.5)式を状態方程式の変化の式(下の式)で書きなおすことができる。
つまり、熱量Qには三通りの書き方があって、
となっている。
また、熱力学には第ゼロ法則があり、それは絶対零度が273度であることであり、第二法則としてエントロピー増大の法則がある。ここで、簡単にエントロピーについて触れておきたい。エントロピーとは、熱力学的には、
で定義されていて(ここで、体積一定での微分を意味している)、統計力学では、
で定義されている。ここでWは状態の個数であり、kはボルツマン数である。エントロピーとはランダム具合を意味している。高校の物理の熱力学は大学では統計力学というマクロなものを扱う学問になる。先に述べたエントロピー増大の法則というのはランダム具合が増加していくことを意味している。例えば、プールにインクを落としたとき、そのインクは広がっていくが、逆に一点に戻ってくることはないということを言っている。
■あとがき
近年の高校物理の指導方針だと、微分方程式をやらなくて、公式の暗記になっていることが分かった。しかしながら、高校物理で使われる数学を理解しておけば、より一層物理への理解が深まるであろう。そういう意味で、大学初年度か二年目で教えるような物理数学の初歩をまとめてみた。物理学者として、極限の取り方などでロピタルの定理を使ってしまっているのだが、高校生ははさみうちの原理を使っているので、高校数学から導けるように書いたつもりである。しかし、高校生にはある程度難しい書物になっていると思う。
■著者紹介
澤山晋太郎
1978年静岡生まれ
2001年慶應義塾大学理工学部物理学科卒
2007年東京工業大学理工学研究科基礎物理学専攻卒 博士(理学)
理論物理学者 専門は相対論
哲学や言語学の研究もやっていたことがある
最近は気になったことは何でも研究している